今年はどうなる


正社員なるものを初めて始め、なかなか映画を見られない最近です。悔しいことに。福利厚生は単純に嬉しいけど。しかし年明け早々から『アンストッパブル』『ソーシャル・ネットワーク』なんていうどえらい2本を見せられると、今年はすごい当たり年なのか。それともこの後は失速するのか。前評判ではどっちかよくわからないイーストウッド先生『ヒアアフター』も控えているわけで。

アンストッパブル』(トニー・スコット


貨物列車が暴走→止めるぜ!だけの話。暴走に至った原因が、「デブだから」。こいつに関してラストにつくオチも素晴らしい。これには『ソシアリスム』のラストのオチなみに爆笑&感動した。とにかく列車は走り続け、まわりでTV中継ヘリが飛び続け、薄汚い労働者のおっさんたちがわらわらし、本社の重役は事態を悪化させるだけ。コネ入社の新米がデンゼルに育てられ、可哀想な若者がヘリから吊され、穀物は猛烈に吹き出し、馬がびびって車はふっ飛ぶ。王道!


複数事態の並行はトニスコのストーリーテリングの基本だけれど、今回はもちろん複数の場で同時に事態が進行しつつ、暴走列車にヘリと車、ふたつの乗り物が物理的に並行しているのが面白い。TV局のヘリは観客への(映画の観客と、劇中の観客への)情報の提供を、車はストーリーを支えていて……と言っても見てないとわかりませんし、そんなことはどうでもいい面白さでありました。デンゼル・ワシントンと新米車掌のやり合いにはうるうるいたしました。アメリカ映画ってこういうことなんだよ!もちろん、これ見てから『北国の帝王』は見直しました。


※昨日友人に聞いたところによると、この話、けっこう実話に忠実で驚いた。(映画見る前の人は読まぬほうがよいです)

ソーシャル・ネットワーク』(デヴィッド・フィンチャー


「誰も悪くない」話というのはほぼつまらないか、そうでないにしてもわからないだけになるものだが、悪人の出てこないこの映画のストーリーも、ほんとうに些細な、つまらないこと。なのに目茶苦茶面白い。これは凄い。『アンストッパブル』も「システムの綻び」を中心に据えた「誰も悪くない」世界を基礎にしつつ(その世界をTV映像はただ伝える)、権力者は馬鹿に描いたり、男気あふれる会話に満ちていたりという古典的な部分が炸裂している。『アンストッパブル』は現代的な部分と古典的な部分が混じり合っているのかいないのかよくわからないところがトニスコ印で面白いのだが、『ソーシャル〜』は「誰も悪くない」話を、まったくもってつまらない話として語る。その語りの中心にくるのは「速度」だ。(余談だが、シャブロル『刑事ベラミー』も、トリッキーな語りで「誰も悪くない」世界の描出に成功している映画だった)


情報産業は速度がすべてを決める世界である、それ以外には何もない、という世界観をそのまま演出に移し替えたフィンチャー。やられたよ畜生!「速い」奴が勝ち、「遅い」奴は脱落する。劇中のシーン、「速い」奴がさっと投げるビール瓶を、「速い」奴は受け取れるが、「遅い」奴は受け取れない。わざわざもう一回投げても、「遅い」奴はやっぱり受け取れない。それはそれで誰が悪いのでもなく、ただの差異としてフィンチャーは事態を描く。それがたまたま情報産業だから、その差異はそのままビジネス上の差異となり、金の差異となる。「遅い」奴はその差異を、速度以外のもので補おうとするしかない。


人物ごとの持つ速度が、そのまま喋る速度として演出される。フィンチャーはキレる演出のできる人ではない(頑張るとしょうもないことにしかならない)が、そこをプラスに活かして印象的な演出はせず、演出を世界観に完璧に一致させている。このネタ(Facebook)を選んだことといい、役者のセレクトといい(つーかあれが合成だなんてな!)、この演出スタイルといい、カチッとピースの嵌ったパズルのようで、しかしそれで失速せずに押し切ったのが凄い。ちなみに『ベンジャミン・バトン』は失速しかなかった印象がある(というかほとんど覚えていない)。


人から指摘を受けて気づいたけれど、この映画、人と人がまともに落ち着いて話せる状況がほとんどないのね。この状況設定はどこまでシナリオでどこまで監督かわからないが、やっぱりうまい。「速い」奴は、ガンガン音楽のかかる状況でもブレることがないし、「遅い」奴は状況に左右される、という原則も設定されていたように思う。冒頭のシーンから、主人公の会話相手の女は目がキョロキョロしているんだなあ。この冒頭シーンが映画全体を完璧に要約しているし、劇中の台詞で「早口世界大会かよ」的なことを人物に言わせるこの映画、平凡なカットをひたすら積み重ねて緻密かつスリリングなのはやはり素晴らしいし、こういうことをやられてしまうと、もちろん規模は全然違うにせよなぜこの国でホリエモンの映画ができなかったのか、と考えてしまう。


アメリカ映画、萬歳。こういう心憎いことをやられると、嬉しさと悔しさが相半ばする。『アウトレイジ』が入らない日本映画ベストテンを作ってる場合やないやろ。