スプリング・フィーバー


少し前にシネマライズで見た『スプリング・フィーバー』ロウ・イエ)、とてもよかった。恋愛至上主義な世界には途中やや醒める時間もあったのだけど、とにかく描写が強い。開巻まもなくで唐突に始まるセックスシーンから、描写の連鎖に引き込まれてゆく。


恋愛三角形からもう一つの恋愛三角形へと移行していくストーリーは普遍的でシンプルなもの。セリフは必要最小限。余計なストーリー説明や心理の説明はなく、描写でドライブしていく。でも話はわかる。このギリギリを突いていく繋ぎは絶妙だ。冒頭近くのセックスシーンも、「ん、そゆこと?」→「ああやっぱ」→まっ最中、という畳み掛けのテンポがいい。HDVキャメラ・手持ち・全篇オートフォーカスのこの作品、さぞ粗いかと思いきや、しっかりカットを割っているし、無雑作に見えて丁寧な編集がなされていて感嘆した。とくにエスタブリッシングショットも入れずに繋いでいくシーン繋ぎがとてもよく、緊張が持続していく。


「手持ちのドキュメント感」なんてものにはいっさい頼っていないし、配役はまっとうに考えて選ばれているし、しっかりと正攻法で演技を撮っている。役者たちには「自由にやらせた」らしいけれど、無駄を省いた演出が行き届いていた。このあたりはがっちりしたフィクション感=作り物感があって、ああ映画だなあと思いながら見ていた。「全員泣く」というコンセプトや猫やと要らないと思えるものもありつつ、終盤、ワンカット内のアクションシーンは間といいタメといい、最高にいいシーンだった。その後の時間経過も面白く、盛り上げるべきところでちゃんと盛り上がる。ド傑作ではないけれど、「しっかり映画している感じ」が漲っていた。


インタビュー(OUTSIDE IN TOKYO / ロウ・イエ『スプリング・フィーバー』インタヴュー)の最後で監督自身も言っているようにカサヴェテスだよな侯孝賢だよな、あるいはドワイヨンだよな、という出自もこの作品は隠そうとはしていない。やりたいことをやる、使えるならホームビデオとさして変わらないキャメラオートフォーカスも使う、という貪欲な強さに目を洗われた気がしたのでした。