ヘルタースケルター




ヘルタースケルター』(蜷川実花)。


「最初に一言、笑いと叫びはよく似ている」……冒頭のこの言葉を完璧にやりおおせた沢尻エリカに拍手。イメージになった女、りりこは「内面」を持てない。そんなものがあったとしても、それもよくあるイメージ、クリシェにしかなりえない。沢尻エリカの芝居はまさにそれを実践していた。低い声と高い声を使いわけ、「叫び」のシーンでは両方の声が同時に噴出してビブラートする。沢尻エリカの、あの叫びには震えた。凄かった。


沢尻エリカがそんな芝居をしているのに、とくに後半、「描写」を持ち込もうとうする監督には苦笑いするしかなかったけれど(あそこまでの芝居があれば、終盤の雨のシーンなんか丸々いらない。ただアザが増えていくだけでいい)、原作に忠実にやると決め、沢尻エリカに全面的に託すと決めたのは監督なのだから、それはよかったのではないかと。とりわけ前半、原作通りということで物語が増えたので、監督お得意の「描写」を入れる余地がなくなったのは大きなプラスだろう。後半でまたぞろつまらない「描写」を入れてくるあたりはほんとうに駄目だと思ったけれど……。


開巻早々の全裸〜ファックから、沢尻エリカの本気に目が離せなくなる。このあたりのスピードもいい。岡崎京子のぺらぺらの画は『ヘルタースケルター』や『リバーズ・エッジ』では物語に負けすぎだと思うけれど(岡崎京子でわたしが好きなのは『ハッピィ・ハウス』と『pink』)、映画版でいきなりモロでつるんとした肉体が目の前に現れるインパクトは確実にあった。最初のファック相手、クボヅカがまた相変わらず上手い。ついでに、哀川翔のコメディアンっぷりにも笑った。


「神」の位置にある検事役が大森南朋だったのは残念。あんなに地に足のついた人でやっちゃいけない。あと、寺島しのぶと彼氏役のおにいちゃんはどうしたって犬のように全裸で醜くファックしなきゃいけない。そんなあれやこれやはあったけれど、とにかくあの沢尻エリカは見ておくべし。渋谷の映画館、場内の観客が全員明らかに自分より若くて怖ろしかったが(わたしもまだ30代になったばかりなのだが)、見てよかった。