ラブ&ラブ&ニューイヤーズにrestless


謹賀新年。今年もよろしくお願いいたします。

昨年はここ10年ほどで初めて、100本も映画が見られなかった。年末年始は久しぶりによく見ました。

ラブ・アゲイングレン・フィカーラ&ジョン・レクア


"Crazy, Stupid, Love." っていいタイトル。いきなり妻に離婚宣告されたモテない中年男の前にヤリチンが現れ……っていうコメディの王道なのだけど、離婚宣告されるシーンから冴えていて、あげく庭に登場人物が全員集合しててんやわんやになったり、最後は息子の卒業式、スピーチに乱入して愛を、なんて、全部ウソなんだけど、これが映画なんだよなあ、とじんわりしてしまう出来のよさ。アメリカン・ラブコメのシナリオ力、アイデア力ってすごい。元アル中女教師のマリサ・トメイに惚れそうになった。御年47だそうです、後で調べたら。「元妻の話をするたびに興奮していく女」ってキャラ設定ってどえらいなあ。そしてジュリアン・ムーアはほんとによかった。元夫と話したくてウソの電話をするのを、夫が庭で見ているシーンはじんわり泣きました。言葉と視覚が噛み合った、見事なシーン。こういう大人のラブコメを作れる国、それがアメリカ。

ラブ&ドラッグ(エドワード・ズウィック


主人公のジェイク・ギレンホールファイザーのMRで、苦戦しているところバイアグラの販売が決まって……という設定の時点で下ネタ必至のコメディー、なのだけれど、難病を抱えたアン・ハサウェイとのあれやこれやがいちいちぐっとくる。いやまさか『ラスト・サムライ』の監督がここまでやるなんて、ハリウッド、奥深すぎ。MRの描写もしっかり調査のうえで、「いやこうなったら面白いよな」ということをきちんとやってくる。ちょっと絡むだけの医者もしっかりキャラが立っていて、パジャマ・パーティー(パジャマ・パーティー!)も少ししっとり。しっとりの後はバイアグラの副作用でカチンコチンの○○○をシフトギアと間違える、なんていう王道のギャグにつながるわけですが。


「難病もの」ではあるのだけれど、難病ゆえのキャラクターにフォーカスが当たっていて、脅えゆえに時に不安定にもなってしまうアン・ハサウェイの演技が素晴らしかった。『レイチェルの結婚』といい、不安定な役をやらせるとほんとにいいな、アン・ハサウェイアン・ハサウェイが瞬時に慟哭するシーンは声が先に来るのだけれど、ほんとうに一瞬ですべてがわかる、見事な演出でした。(脇に逸れるがワン・ビン『無言歌』の終わらない慟哭は、狙ってるんだろうけど、ほんとうに飽き飽きした。ワン・ビンには瞬発力=活劇精神がない上に、すべて見せてしまう。駄目でしょう、この人。)前半から脱ぎっぷりもよくて(片乳!)、こういうのをしっかりやってくるのも偉いなあと思います。劇中に出てくるパーキンソン病患者の人たちは実際に患っている人たちだそうで、しっかりその人たちをドラマに組み込んで、魅力的に見せることができているのも凄い。

ニューイヤーズ・イブ(ゲイリー・マーシャル


年も明けてしまってからこの映画について云々するのは無粋ですのでつべこべ書きませんが、前作『バレンタインデー』より映画としてはやや大味になったとはいえ、タイムズスクエアに集まる大群衆を撮ってしまったり、ヒラリー・スワンクの演説がすべての人に届いたり(アメリカ映画はどうしてこうも演説シーンが上手いのか?)、ボンジョヴィは結構出てたり、スケールがいっそう拡がって、もちろん全員にハッピーエンドが待っている。ボンジョヴィがタイムズスクエアで歌うのがオーティス・レディングの「Can't Turn You Loose」なのも素敵だし、とにかく素敵な映画とはこういうこと。


Can't Turn You Loose - Otis Redding

永遠の僕たち(ガス・ヴァン・サント


これがわたしの、今年見た一本目。既に各所で指摘されていると思いますが、青山真治『東京公園』との類似っぷりが半端ない。こちらは難病ものの枠をとりつつ、狙いは「いかにして死を受け入れるか」だし。公園もよく出てくるし。ネタバレ自粛しますが、あの設定も同じだし。デニス・ホッパーの息子が、ミア・ワシコウスカ(『アリス・イン・ワンダーランド』のアリスですね)が、ほんとうに繊細で美しくて。キュンキュンしました。キュンキュン初め。個人的に美しすぎるきらいはあると感じますが。お馴染み凄腕キャメラマンのハリス・サヴィデスの撮影はほんとうにいい。加瀬亮の設定は日本人的にはちょっとどうかと思ってしまったけど。結局イーストウッドかよ!みたいな。


それにしても『東京公園』とこうまで響き合う、この感じは何なんでしょうか。穏やかな光と、ときに禍々しく立ち上がってくる空洞と。瑞々しさと。原題 "restless" だし。繊細な美しさを眺めているうちにあっという間に終わってしまう、あっけない90分は、それでもとても幸せな時間ではありました。2つ隣くらいの席に座ったおっさんが文字通りrestlessに貧乏ゆすりばかりしていたのがどうでもよくなるくらいに。



それでは今年も脱原発