Rocks Off


批評家、安井豊作(豊あらため)監督による『Rocks Off』。


灰野敬二が初めてピアノに挑んだという即興演奏の長い長いシーンと、誰もいない学館の、落書きで埋め尽くされた壁とが繋ぎ合わされる。ピアノをぶっ壊す勢いで叩く灰野敬二の、座っている椅子のきしみや長い髪を振り払う仕草や(「縛ればいいのに」とは誰も突っ込めない空気感)ペダルを踏む音が、鋭いピアノの音と渾然一体となって、そこは紛れもなくノイズに満ちた灰野敬二の空間となる。一方で、重機の音が通奏低音として流れる学館の光景のなかには誰も人がいない。かつてそこに数多のサークルが、長きにわたって歴史を形成していたのだという、その痕跡だけが残る。どこにいたって灰野敬二灰野敬二でしかありえないし、伝説的な学館といったってあくまで建物でしかなく、その歴史を壁という平面に留めるのみ。それらが共にあったのが「法政大学学館」という、人でも建物でもない「場」だったのだろう。人がいなくなり、鋼鉄の草をはむはむする恐竜のように見えてくる重機がうごめく解体現場はどこかのどかで、灰野敬二は相変わらずのテンションで、いつかピアノが壊れるんじゃなかろうかとドキドキする。


それらをストイックなキャメラと豊かな音響で、ただ描くこの映画は安井豊作氏の文章に似て、トッポくてトガってる。無人の廊下のドリーショットにROVOの左右にぱっきり振られたツインドラムが響き渡るとき、そこに何かあるわけではないのだが、異様な盛り上がりが訪れる。これは劇場のスピーカーでないとなかなか味わえるものではないだろうから、今後ロードショーの機会があれば、ぜひ劇場で見ることをおすすめします。