桜の代紋


『桜の代紋』(三隅研次)@新文芸坐


むかしVHSで見たきりで、ようやくフィルムで見られたこの映画。プリントも綺麗なものでした。やや荒っぽいけど人はいい若山富三郎の刑事が、ある地点からひたすら凄絶なことになっていく。その追い込みかたはラングの『ビッグ・ヒート』とも通じるものがあって、凄まじいとしか言いようがない。しかもこの刑事は若富にしかできない、何とも人間くさくて、その人間くささゆえに追い込まれていくのを見るのが一層つらいというキャラクター。


ボロボロになって家に帰った若富と、その後に続く不吉な日常風景の痛ましさ。死体安置所から出てくる死体を捉える、あのゆるやかな後退移動のもたらす、決定的な悲壮感。ぐっとこらえるがこらえきれていないのが全身から滲み出てくるような若富の悲劇役者ぶりが凄まじい。そして淡々と行われていく殺戮。それらを冷徹に捉えていく三隅研次の手つきも素晴らしい。


もちろん勝新だっていいんですけど、わたしはやっぱり若富派です。