ひとつの歌

先日、杉田協士監督の初長編『ひとつの歌』(池袋シネマロサにて来年公開予定)を試写で拝見しました。


コッポラの『テトロ』もそうだったけれど、弱さを積極的に受け入れる強さを持った映画だった。一回の出会いが、一つの歌が、ギリギリな若者二人をかろうじて繋ぎ止める。そのあまりにも微かで弱々しい糸をこの映画は肯定する。どっしりと腰を据えたキャメラで、信じて見つめ続ける。希薄な男の物語は、やがて希薄な女の悲しみと合流し、そこで映画は終わる。語らない人々に沈潜している悲しみを、一枚の写真があぶり出す。主人公の男がいつも持ち歩いているポラロイドカメラ、そのカメラで撮られた写真のように、じっくりと、ゆっくりと、明らかになっていくものがある。時間をかけることでしか口に出せないことがある。堂々としてしかも希薄な、ちょっと見たことのない感触の映画でした。


そんな時間をばさりと飛び越える、とても好きなシーンがあって。男と女は初めての遠出をする。海の見える斜面で、女は男にプライベートな物を見せる。男は、この映画で初めて笑う。その笑顔が、それまでの男の顔とは随分印象が違っていて、ああこんな笑顔をする人なんだ、と気づく。あの笑顔は素敵だった。


この小さくて芯の通った映画がなるべく多くの人に見られるといい。公開時にはぜひ見てみてください。