サイレンサー


公開中の『プレシャス』が誠実でとてもいい映画だったので、監督の処女作『サイレンサー』(リー・ダニエルズ・'05)をDVDで鑑賞。原題は "Shadowboxer"


まあ下手も下手でハラハラしたが、野心は高い。虐待されていた子の話、ということでは『プレシャス』と同じことをやっているが、カテゴライズが難しい映画になっている。殺し屋映画だがシマウマが出てきたり、バッハとNASピアソラがかかったり。それらがうまく機能しているわけでもなく、かといってやっちゃいました感が漂うわけでもない微妙なところ。恥じらいながら攻めているような、誠実で不器用な印象。メイキング中、監督が子どもに「泣けよ!ここは悲しいシーンなんだ!」と怒鳴って泣かせている箇所があったが、この愚直すぎる感じ。もともと製作をやっていた人らしいが、いい人なんだろうなあ。『プレシャス』も適材適所っぷりが心地よい映画だったが、この映画でもそこは外さず、役者のセレクトはうまい。


ヘレン・ミレンがとてもいいが、芝居が繋がっていない箇所が多いのが悔やまれる。ヘレン・ミレンキューバ・ グッディング・Jr.との関係性がこの映画のポイントだが、ここはよくやったと思う。恋人であり母であり教師でもあり同僚でもあるような。ジム・トンプスンの小説『グリフターズ』を思いだした。


冒頭で死期が近いことがわかっているヘレン・ミレンは当然死ぬことになるのだろうと思っていたが、まさかあんなことになるとは。ここらへんは白眉なので、『プレシャス』が気に入った人はぜひ見てみてください。傑作でも何でもない映画だけど、この心意気は届く人には届くはず。不器用でも志に貫かれたこのような映画、わたしは好きだ。