エッセンシャルなベラミーのエクスペンダブルな遠距離恋愛

金がない。金がほしい。


最近見た映画たちのことを、備忘録的に。

『エッセンシャル・キリング』(イェジー・スコリモフスキ)@東京国際映画祭


追い詰められた動物としての人間。雪の中をただただ怯えて逃げ惑うヴィンセント・ギャロの歩みはガス・ヴァン・サント『ジェリー』のそれを思わせるが、ジェリーと違ってギャロは一人しかいない。『エレファント』や『ラストデイズ』のような社会的な文脈もない。ギャロは「タリバン兵士」らしいのだがそれはほぼ関係なく、というかその文脈はギャロの行動をいささかも説明しない。何もわからないまま、ラストでは初期ガレルのような猛烈なポエジーに至る。その過程で、生々しいアクションが頻発する。何といっても、これはスコリモフスキの映画なのだから。


我々は動物であり、生まれるときと死ぬときは一人。寒々しい、哀しい映画だった。かなり落ち込んだ。これが映画として傑作なのかどうかもよくわからない。スコリモフスキはいつでも軽々と壁を乗り越えていく。


この映画は公開が決まっているようです。だけど冬に見て落ちるのがこの映画を見るにはベスト。これを見た日は急に寒くなった日で、六本木ヒルズまわりの吹き荒れるビル風に凍えたのでした。地下鉄構内に入った瞬間、メガネが曇って何も見えなくなった。

『刑事ベラミー』(クロード・シャブロル)@東京国際映画祭


田舎でのバカンス。事件。嘘のようにあっけらかんと事件の関係者たちがつながっていく。物語はあまりにも軽やかに先へ進んでゆき、ふつっと終わる。ベラミーと奥さんの大人の関係、そして画エロ。いいんだなあ。完全な善人も完全な悪人もいない世界で、お互いが傷ついたり傷つけたり支えあったりしながら時は経ち、喜劇も悲劇も起こる。ここに流れるのは紛れもない『ゲームの規則』の精神だ。シャブロルは近作『石の微笑』も簡潔な上手さが光ってよかったけれど、さらにスケールアップしたこれは紛れもない傑作。終盤のマンホールのシーンなど、最高だった。足元に穴はある。そんな言葉にすると陳腐なことを堂々とシンプルに撮っていた。上映後、しばらく立てなかった。ぜひ一般公開希望。

『エクスペンダブルズ』(シルヴェスター・スタローン


相変わらずスタローンは空間把握ができず、それでもカットの量と爆薬の量で強引に乗り切っていく。そのひたむきなさまに感動する。『ランボー 最後の戦場』でのスタローンは犬のように哀れな目をしていたが、今回はジェット・リーが常に哀しみを引きずった役回りで、とてもいい。いくら頑張っても巨体に負けるジェット・リー。このあたり、スタローンの作家性は哀しみ(『ランボー 最後の戦場』ラストひとつ前の超長距離の切り返しからラストの帰還)と強引な撮り方のアクションに絞られてきている感がある。何せ人が入り乱れてくると、誰がどの位置にいるのか皆目わからなくなる。しかしテンションで乗り切る。今回は物語自体がスカスカで、空疎といえばこれ以上空疎な映画もない。ひたむきといえばこれ以上ひたむきな映画もない。このひたむきさ、わたしは買います。


最近のスタローン映画はセリフが何ともアメリカンなのもいい。「おまえの美容師にな!」にはちょっと泣いた。ラスト近くの機内でスタローンがかけられる言葉とスタローンのリアクションにはにやにやした。これぞアメリカ映画、な簡潔にしてキャラクターが凝縮されたやりとりで、ひゃっほい!でした。

『ナイト&デイ』(ジェームズ・マンゴールド


爽快で面白いのだけれど、いちいち気のきいた「ハズし」にどうも乗り切れず。「アクション映画」そのものに対する自己言及性がやや鼻についた。本質的にはホークス『ヒズ・ガール・フライデー』的なスクリューボール・コメディを目指したのだと思うのだが、テンポのよさは買うにしても、笑いもいまいちスベり気味。運動機械としてのトム・クルーズもいいしキャメロン・ディアスもかわいくていいのだけれど、目尻の皺をどう見ていいのかもよくわからず。とくにそれがキャラクターに活かされていなくて。やや不完全燃焼でした。

遠距離恋愛 彼女の決断』(ナネット・バースタイン)


最近のドリュー・バリモアはキてる、ということで。あと「『バレンタインデー』よりいい」と言われたら、ラブコメ好きとしては見に行かないわけにいかず。


で、とにかくこれはよかった。無駄なくサクサク進む展開に、ギャグもことごとく決まる。「マイケル・ベイおたくの短小」には爆笑してしまいました。何と言ってもプライベートでも付き合ったり離れたりしているらしいバリモアとジャスティン・ロングの距離感がとてもよく、スタッフワークもソツなく、脇役はしっかり笑わせてくれるし泣かせてくれる。ロングくんのヒゲ友人二人、バリモア姐さんの姉一家が効いてるんだよなあ。主人公二人の家と職場に行き着けのバー、あとは空港と、その他細々。こんなに少ないロケ場所で、工夫をこらしてしっかりやればここまでできる。バリモア姐さんのビッチな笑い声はもちろん、ファッションもいいしロングくんの髪型もいいしネタに上がる固有名詞も個人的にツボで。主人公二人の職場でのポジションもしっかりと描き込まれているのがいい。丁寧で誠実な仕事がしてある作品でした。いや映画ってこういうことじゃないのと思ったり。


こじんまりとした、映画史に残るとかそんなこともまずないだろう作品だけれど、こういう普通の映画は素敵です。


※ちなみに予告編には一番の爆笑ポイントのネタバレがあるので、見に行こうという人は見ないほうがよいです。何であんなことするんやろ。理解できない。邦題ももうちょいがんばろうや。