ローラーガールズ・ダイアリー


『ローラーガールズ・ダイアリー』ドリュー・バリモア/2009)は近年のアメリカ映画でまれに見る、パワフルに古典的な映画だった。原題は Whip It 。潔いタイトル。


スモールタウンの田舎、親の束縛、ローラー競技との出会い。この出会いのカットにみなぎる、「運命に出会ってしまった」感が、いい。その直後に、ファンシーキャラつきローラースケートをはいたエレン・ペイジが道路を一人で滑っているところを正面から捉えたカットが、いい。ぽんぽんとカットで繋いでゆくこの映画、物語は爆速。誰もが予想するストーリーラインがローラーガールとともに滑走する。主役のエレン・ペイジがそんなにいいとは思えなかったけど(かわいらしいけど)、年増ローラーガールたちの表情は、後期アルドリッチ映画の脇にいる男たちのよう。脇役だけで作ったような『クワイヤボーイズ』がわたしはとても好きなのです。


もちろん、闘う女といえば遺作『カリフォルニア・ドールズ』があるわけだが、どちらかといえばアルドリッチ精神はこの映画の脇役たちのほうにある。親玉ライバルのジュリエット・ルイスゾーイ・ベル(=『デス・プルーフ』のスタント狂ガール)、シングルマザーのクリステン・ウィグらのほうに。そしてもちろん、ドリュー・バリモア。プールサイドで男に馬乗りになるバリモアの顔に心理はない。ただ凄い笑顔があるだけ。バート・ヤングの笑い声みたいに、そこに意味も心理もない。それがいい。エレン・ペイジまわりは最近の映画によくあるナチュラル演技をやっていて、ここらへんはどこまで意図的に使いわけているのかは、ちょっとわからない。エレン・ペイジがほんとうに楽しそうに演じていて、決して悪くはないのだけど。バイト先の店で友達と歌いだすところでは、思わずぐっときてしまった。歌に続いてきっちりお話は先へ進むという、当たり前のことを当たり前にやってもいるシーン。


ドリュー・バリモアがなぜここまで古典的にシンプルな映画を?と驚いたが、脚本にシャマラン作の脚本家で『ミュンヘン』の製作にも関わっている人、キャメラは『ライフ・アクアティック』『ダージリン急行』のキャメラマン、美術は『ダークナイト』のアートディレクターと、後で調べると実は鉄壁中の布陣で、バリモアは単なる子役→ジャンキーの人というイメージでいたら、人選びの才とセンスに満ちあふれた人だったという。バリモア家の血筋はダテじゃない。最強のアドバイザーでもいるのかも。そこらへんはどういうことになっているのか、さっぱりわからない。


音楽がまたポップに見事で、まさかバリモア初監督作の劇中で2回もダニエル・ジョンストンのイラストが出てくるとは。ここも驚いた。


まあアルドリッチやなんだと言わずとも(わたしは言っていく)、絶対に楽しめるスモールタウンの青春もの。難しい映画が好きな人には受けないかもしれないけれど、シンプルで力強いこの映画、ぜひ多くの人に見てほしい。描かれていることは、誰もが抱えている/いたものであるはず。東京では早稲田松竹で10月にやるそうです。バリモアの次作は『オズの魔法使い』の続編ものらしく、"Surrender Dorothy "というタイトルを聞いただけで、わたしはわくわくしてしまう。