カール・マイ



アテネ・フランセのハンス・ユルゲン・ジーバーベルク特集にて、『カール・マイ』。


ベストセラー冒険小説家であるホラ吹きのおっちゃんが、「あんた昔はエロ小説書いてたやろ」とか「オマエ博士号持ってるいうけど偽装やん」とか「世界中冒険旅行した言うて、ドイツから出たことないやん」とか言われて(全部正しくはあるんだが)次々に訴訟を起こされ、のうのうとしてるんだか、苦悩してるんだか……というお話。「いやしんどいねんワシ」という感じでありつつ、とつぜん秘書と結婚して「ワレ出てけや」と妻を追い出してしまったりする、食えないおっさんの一代記。昔の所行は謎だし、ホラ吹き。だが話はおもしろいし、盛り上がる。ときに感動的だったりする……ついつい関西弁で記してしまったが、このおっさんには関西のニオイがする。


関西とは何の関係もないジーバーベルクを見るのは、先日『ヒトラー、またはドイツ映画』(ヒトラーはドイツが生んだ映画の一つである、というような意味らしい)の第1・2部を見て以来の2度目だが、予想以上にポップで驚く。といってもシーンとシーンの繋がり方がよくわからず、なのだが全体として、「おっちゃんの人生」にちゃんとなっていて楽しめる、という、奇妙な映画。セリフとして手紙の朗読を多用していたりとしっかりブレヒトしているのだが、3時間の長尺に飽きることもなく、普通の意味で楽しめる。前半はいろいろな人や情報が次々と出てくる、法廷サスペンス。後半はそんなあれやこれやに疲れたおっちゃんの孤独がメイン、とこのあたりもわかりやすく。人間関係もそれなりに追えるし、『ヒトラー〜』でたぶん全開のもろジーバーベルク節、といった感じでもなく(剥製とミニチュアが好きなのはよくわかったが)、でもどこかおかしい。


映画とはそもそもフェイクであり詐欺であり、いかがわしいものであり、だからこの、大衆を熱狂させるホラ吹きのおっちゃんのも持ついかがわしさは……というような話は多分どこかで誰かが立派に書いてくれるだろうから、いや165分かけて『ダークナイトライジング』見るより182分の『カール・マイ』を見るほうが普通の意味でもよっぽど面白いですよ(ただし設備上、尻は痛くなるけれど)、とだけ記しておくことにする。